「お前は一人でも大丈夫」ですって?!~振る際の言葉にはご注意下さい。

 千夏にワイン入ったグラスを手渡し、陽翔はベッドサイドに腰を下ろすと、自分のワイングラスにも赤ワインを注いだ。

「千夏さん誕生日おめでとう」

「ありがとう」

 二人は持っていたグラスを軽く合わせた。それからワインを一口くちに含む。

「美味しい」

「気に入った?千夏さんが好きそうなワイン用意しておいて良かった」

「陽翔、買い物に出たわけでも無いのに、よくこんなに沢山の料理作れたわね」

「ああ、これは……明日用だったんですよ」

「こんなに沢山一人で食べようと思ってたの?」

 千夏の質問に少し間を開けてから陽翔が答えた。

「……今日、千夏さんの誕生日を祝ったら、そのまま抱き潰そうと思っていたから、次の日はゆっくり過ごせるように買い込んでいたんです。磯田くんとの事を俺が勘違いしたせいで一日早くなってしまったけれど、用意しておいて良かった」

「…………」

 これは何と答えたら良いのだろう。

 抱き潰すって……。

 早かれ遅かれ、この状況から逃れることが出来なかった事を、千夏は知る。若干引き気味の千夏に陽翔はポケットから何かを取り出した。

「千夏さんこれ誕生日プレゼント。受け取ってくれる」

 千夏の目の前に差し出されたのは……小さな小箱で……。その箱を受け取った千夏はゆっくりとその箱を開けた。

 中に入っていたのは……。

 光輝くダイヤモンドの指輪。

「陽翔これ……」

「婚約指輪だよ。かってに選んじゃったけど、大丈夫だった?デザインが気に入らなかったら違うのを買うよ」

 気に入らないわけが無い。

 きっと一生懸命選んでくれたに違いない。

「これでいい。ううん……陽翔の選んでくれたこれが良い」

 千夏は陽翔に飛びついた。

「そっか、良かった。じゃあ千夏さんその箱貸して」

 陽翔は箱から指輪を取り出すと、千夏の薬指に指輪をはめた。

 嬉しい。

 この指に指輪をはめる日を夢見ていた。

「陽翔ありがとう」

 千夏が頬を染めお礼を言うと、陽翔も嬉しそうに微笑んだ。

「一緒に幸せになろうね」

「はい!」

 幸せそうに微笑む二人だったが、この後、千夏は陽翔に抱き潰され、また泣くことになるのだった。












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