【SR】秘密
家の近くで車を降りる。


そこの角の先には、冷たい我が家。


小さな二階建てのアパートの前で、改めてその古さに目をしかめる。


築三十年の木造建築、八畳の1DK、バストイレ一緒の六万円。


家に帰って来ない母と私が住むには十分な家。


あたしが家賃を払っているから、事実上自分の城だ。


「……頭、ぼーっとする……。」


ここ最近、仕事から帰るとずっとこんな調子だった。


こんな状態じゃなかったら、もっと早くにあの異常な視線を感じる事ができたかもしれないのに……。


ぼんやりする頭をスッキリさせる為に、アロマスチーマーにベルガモットの精油を垂らし、スイッチを入れる。


ふわりと柑橘系の香りが漂ってきた所でシャワーを浴びた。


……明日も学校だ。


早く寝なくちゃ。


髪を乾かし、布団を敷いて潜り込んだ時だった。


カタン…………


暗い部屋の中で、玄関から物音が聞こえて飛び起きた。


聞き慣れた、玄関のドアについているポストの小さな扉が開く音。


…………また、なの…………?


震える身体に掛け布団を丸ごと巻き付けながら玄関に向かう。


ドアの覗き穴の上につけて目隠しにしている小さな板を片手でめくりあげ、恐る恐る外を伺った。


…………やっぱり、誰もいない…………。


目線を下のポストに移すと、ベロリと垂れ下がる何か。
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