貯金500万円の使い方


 舞花は昨日同様、体育館の扉に集まるギャラリーに紛れて部活を見学していた。

 その一部から「林田くーん」という黄色い声援が届く。

 俊平はめちゃめちゃ張り切っていた。

 もともと動きに切れがあってシュートも遠慮なく打っていく方なんだけど、今日はそれに磨きがかかった。

 素早い動きの中で無駄にかっこつけて、女子の視線をいつも以上に集めている。

 歓声が体育館の壁や天井に反射して、バッシュが床をこする音や、部員たちの掛け声に遠慮なく混ざる。

 シュートを決めるたびに、舞花に手を振ったり、ガッツポーズを作ったり。

 僕はその行動に内心焦っていた。

 ただでさえ謎の美少女で目立ちかけている舞花が、そんなことしては余計に目立ってしまう。

 その証拠に、他の部員たちの視線も自然とそちらに向けられるし、俊平狙いの女子たちの冷ややかな視線が舞花に注がれている。


 何とか練習時間も終わり、僕は早々に舞花を連れて帰りたかった。

 だけど、一年生は最後まで残って片づけをしないといけないなんていう時代遅れのルールのせいで足止めを食らっている。


「あれ? 舞花ちゃんどこ行っちゃったんだろう」


 俊平が僕に話しかけるわけでもなく、だけど僕に近づきながらそう言った。

 舞花なら恐らく、今頃校内をぐるりと回っているはずだ。

 僕は片付けがあるから、練習が終わる前に人の目がない職員用玄関で待つように、指示してあった。

 あそこなら職員室から漏れ出すクーラーの風が心地いい。

 職員室は近いけど、学校の体操服も来ているし、先生とすれ違っても怪しまれないと思った。

 昨日同様、そこで落ち合うつもりだった。


「待ち合わせしてんの?」


 俊平の勘に、一瞬肩が震えた。

 僕はそこから逃げるように、転がったボールを拾いに走る。

 それを、俊平はしつこく追いかけてくる。


「やっぱ舞花ちゃん可愛いよな。

 前からかわいいとは思ってたけど、たった3年であんなに変わる?

 もう天使にしか見えないじゃん。

 あおいもそう思うだろ?」


「別に」

「興味なし? 連絡先とか教えてよ」

「知らないし。てか知ってても教えねえよ」

「なんだよ、知らないのかよ。じゃあ後で聞いてみよっかな。

 俺、前から舞花ちゃん狙ってたし。

転校しちゃったから諦めたけど。

 こうして再会するなんて、チャンスってことじゃない?

 それに、舞花ちゃんはあおいのことが好きだと思ってたから。

 みんなそう思ってたし。公認カップル的な?

 でもそうじゃないなら俺が狙ってもいいでしょ?

 もう小学生のカップルごっこじゃなくてさ、マジのカップル……」


「やめろよ」


 僕は俊平の話を断ち切るように、あいつのTシャツの肩口をぎゅっとつかんでいた。


「舞花は他校の生徒だぞ。

 上手く誤魔化すどころかか目立たせてどうすんだよ。どういうつもりなんだよ」


 僕が小声で俊平に詰めかけたけど、俊平は余裕の顔をしてふっと笑ってから言った。


「はじめに舞花ちゃんを学校に入れたのはお前だろ?

 もうその時点でアウトでしょ」


 その言葉に、僕は何も言えなくなる。


「おまえだってさ、自分のいいとこ見せたかったんじゃないの?」


 僕の胸をえぐるような声で、俊平は話し続けた。


「ていうか、もう舞花って呼んでるんだ?」


 その言葉に、僕の頬がかっとなる。

 俊平は一瞬意味ありげな笑みを作って、Tシャツをつかんでいた僕の手を振りほどいた。


「じゃあさ、なんか勝負しない?」

「え?」

「俺が勝ったら、俺と舞花ちゃんのこと取り持ってよ。

 俺が負けたら、もう舞花ちゃんには近づかない。

 勝負は、じゃあ……シンプルに、フリースロー対決で良い?

 ルールもシンプルに、先に外した方が負け。それまでエンドレス」

 俊平が段取りよく勝手に話を進めていく。

 確かに条件も決着方法もシンプルで分かりやすい。

 俊平らしい勝負の方法だと思った。

 だって、俊平のシュートの命中率は僕よりもずっと高い。

 そして俊平は、僕がシュートを苦手としていることを知っている。
 
 あいつに有利な勝負だ。
 
 こういうところも、好きじゃない。
 
 だけど僕は、自信満々で挑発的な俊平の目をしっかりと見て答えた。


「いいよ」

「じゃあ、この後すぐな。午後からバレー部使うし、早く決着付けようぜ」


 そう言って俊平は、今同級生が磨いたばかりの体育館の床に、ボールをバウンドさせる。

 その音は天井まで高く響いて、僕の耳に鋭く帰ってきた。



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