恋は塩味(ねこ神様のお通り・失恋ファンタジー)
<違和感・格差の考察・3>

帰りは、靴ずれで痛い思いをするに、決まっている。

シンデレラも片方の靴が脱げたのは、
靴ずれが痛くて、放り投げたのではないかと思う。
お城の舞踏会でも緊張しただろうし・・・

礼智の予約したレストランは、ホテルの最上階で眺めが素晴らしかった。
大きな都会の夜景は宝石箱を開けたようであり、
魔法をかけたように美しい。

でも、今の私の仕事・・
パティシエとしては、とても勉強になるレストラン体験だ。
特にテーブルの脇にワゴンで運ばれてくるデザートのケーキの数々は、
繊細な絵画のように、目が奪われてしまう。

礼智はまったく場所慣れしていて、ソムリエとも専門的なワインの話を対等に話する。
ワインとチーズ、料理、デザートすべて・・
彼の知識は豊富だ。

「やっぱり、ピスタチオがいいな。
何層にもわたって味の組み合わせのバランスがいい。
舌に残る余韻がすっきりして、嫌味がない」

彼は評論家のように言い、
美しく飾られたケーキを崩して、躊躇なくフォークで口に運ぶ。

私も、舌に残る味をどのように再現するのか、脳内でフル回転だ。
材料、配合、焼き時間、温度 盛り付け・・・・

プロのはしくれとして、お菓子の専門家、作り手である私は、
すでに恋人同士の甘い時間ではなく、次なるレシピのヒントを求めている。

その意味でも、礼智は重要なパートナーと言えた。
礼智のグルメの舌と美的センスは、
私にはとてもかなわないものだから・・・

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