ブラッド★プリンス〜吸血鬼と女神の秘密〜
人間界(ここ)では、人から直接血を飲むことは禁じられている。飲みたくないと言えば嘘になるけど、血迷ったことはない。でもーー」

 ちらりと目が合って、ドキッとした。
 なんて切なげで苦しそうな顔をしてるの?

「彼女の血は、強烈に鼻につく。今まで嗅いだことのないような、特別な香りがするんだ」

 そんな目で見つめないで。
 まるで、ほんとは血を吸いたいって訴えかけているみたい。

「吸血鬼だけが惹きつけられるフェロモンみたいなもんじゃよ。人間で言う、甘い菓子がとなりにおるようなもの」

 にこやかなモラナに、冷たい視線を送るイリヤくん。

 お菓子の例えはどうかと思うけど、それがほんとうなら、私なんかといるのつらいんじゃないのかな。

「そういえば、返してもらえるかの? わしの落としもの」

 思い出したように、モラナが私の顔を見る。心当たりがなくて首をかしげるけど、「ほら、あれじゃよ、あれ」とまた言われた。

 なにかを預かった覚えはないけど……なんのことだろう?

「ターラアラーレ」

 呪文を唱えながら、モラナが人差し指をクイっと曲げる。ぽかんと見ていると、なにやら右のポケットがガサゴソと動き出した。

 な、なにこれ?!

 そのまま指をピーンと伸ばすと、天井へと上げていく。

 すると、きらきらした物がポケットの中から上がって来た。
 輝きを放ちながら顔の前に浮かび、操られるようにしてモラナの手の中へ収まった。
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