置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
「あ、仕事……」

「それは大丈夫。もともと1週間休んでいたでしょ?それに加えて体調不良で入院してるから病欠になってるのよ。部長さんには本当のことをお話ししてあるわ。理解のある部長さんで一度お見舞いに来てくださったわ」

「そうだったの。」

「阿川さんも同じ会社だから働きにくいだろう、と心配もしてくれてたわ」

何も答えられなくなる。
所属は違うが同じ会社にいる限り会うことは絶対にある。
それに私たちは同期で、私たちの代は仲が良くて20人もいるのに同期会を開いたりするくらいの仲。
ついこの前もみんなに祝福されたばかりだった。
悠介だって花束受け取ってたよね。
あの日の記憶を呼び戻しても、悠介が破談にするとは思えなかった。
気がつかなかったのは自分だけだったのだろうか。
情けない。
もちろん会社になんていきたくない。
でも、どうして私がいくのを躊躇わなければならないの?
悪いのは向こう。
式当日に突然の中止。しかも私には連絡も来ないまま、親に土下座までさせた悠介。
優柔不断だと思っていたけれど式当日まで決断できなかったことを腹立たしく思う。
1日でも早く言ってくれたらこんなことにはならなかった。

でもそんな男を選んでしまったのも自分。

もう2度と誰も好きにならない。

会社には行かないわけにはいかない。
これから働かないといけないし、第一、今の仕事が大好きだからこんなことが理由で辞めたくはない。

でも……
みんなの視線が怖い。
噂なんてすぐに広まるもの。
悠介と同じ会社だからこそ何人も会社の人を呼んでいた。
だから今頃はみんなに知れ渡っているはず。

怖い。

考え出すと気持ちが落ち着かなくなり、頭の中がうまく整理できない。

「お母さん、どうしよう。どうしよう。これからどうしたらいいんだろう」

ここでやっと私の目から涙が出て流れてきた。
悠介のことではなくやっと周りが見えてきた。

「大丈夫よ」

そう言いながら背中を撫でてくれる母に縋るように泣いてしまった。

「仕事は辞めてもいいのよ。心機一転頑張ってみる?辛いなら無理する必要はないわ」

私は答えられずにいた。
ただ今は母の優しさに触れていたかった。

病院でその後3日過ごし私は退院した。

仲のいい友人からは心配するメッセージがたくさん届いていた。

でも興味本位なのか、本当に心配してくれているのか疑心暗鬼になってしまいメッセージを返すことは出来なかった。

私は安定剤を処方され家に帰ると母はいつもと変わらず迎えいえてくれ一歩入るとホッとした。
仕事から帰ってきた父や弟も何も変わることなく接してくれた。

< 4 / 84 >

この作品をシェア

pagetop