置き去りにされた花嫁をこの手で幸せに
翌朝タクシーでホテルへ向かうとすでに撮影の準備が始まっていた。

昨日あんなに飲んだのにちゃんと出てこれるなんてさすがプロ。しかも私たちより早くから来て準備まで出来るなんて凄い胃袋だったんだと思った。

今日もコーディネーターが作ってくれたセッティングで撮影が始まる。
数えきれないほどのシャッター音が鳴り響く。
1日かけ写真を撮り終え終了となった。

明日からは新規雇用の相談や料理長が訪れるため厨房の確認、本社のホテルマネージャーと打ち合わせなど今週はびっちりと予定が入っていた。
それでもどこか大変な中でも楽しくもあった。
それに常に隼人がそばにいるだけで嬉しかった。

本社に行かないだけでだいぶ気持ちが楽だったけど、今精神的に隼人の支えが大きいとは言わざるを得ない。

私に告白してくれてから、隠すことなく私への気持ちをぶつけてきてくれる。
愛の言葉をくれる。
優しい視線で守っていてくれるのがわかる。
体の繋がりはなくても心の繋がりを感じる。

だからもっと隼人と繋がりたいと思うけど言い出せない。
ついこの前まで結婚しようと思ってた相手がいたくせに、もう乗り換えたと言われるのが怖い。
他人からまた噂をされるのが嫌だから隼人とのことは誰にも言えない。
隼人だって捨てられた女と言われる私と付き合って噂されたら可哀想。

他人の目がどうしても気になる私は自分から踏み出せずにいた。

だからここにいると少しだけ開放的になれる。
みんながいないと思うだけで空に向かって両手を広げたくなる。東京にいると縮こまっている体が石垣島にいると穏やかになれる。
いつも隼人は言葉にしてくれるけど私はなかなか気持ちを口に出せずにいた。
だけどやっぱり彼に伝えたいと思う。

最終日、打ち合わせが全て終わりみんなが引き上げ、私たちも帰ろうとするが夕日を見に浜へ行こうと誘った。
ガーデンを抜け、砂浜へ下りると徐々に夕日が沈みつつあった。何度見ても綺麗な茜色。
2月で寒い時期だからか空気が澄んで、格別に綺麗に見える。
くっつくように座ると隼人は指を絡めてきた。

「何度見ても見飽きないな。毎回違う夕日だ」

「うん。そうだね。隼人はこの景色好き?」

「もちろんだよ」

「私も。ここにいると心が解放される気がする。だからこの仕事が終わったら退職して、ここに住みたいと思ってたの」

「え?」

「でも隼人のことが大好きになっちゃった。それが苦しいの。隼人に守られているだけの自分が嫌なの」

「奈々美?」

「隼人のことが大好きだけど、それだけじゃ乗り切れない。隼人は目立つ人だから付き合ったことがみんなに周知されたら私はまた散々陰口叩かれるよ。捨てられた女とレッテルを貼られた私には辛いの。隼人にも迷惑かけちゃう。だからこの仕事も好きだけど、パールビレッジリゾートも好きだけどこのまま続けていいのか悩んでる」

私は海に沈む夕日を見ながら話し続けた。

隼人の顔を見ることが出来なかった。

「レッテル貼られてるなんて言うなよ。自分を卑下するな。俺がお前を必要なんだ。仕事は辞めてもいい。でも俺はお前を諦めない」

「隼人。隼人はどれだけの人に愛されてると思う?そんな隼人を私が独り占めにしたらみんな納得いかないよ。また小さくなって過ごさないといけなくなる」

「俺が愛してるのは奈々美だけだ」

「私も隼人を愛してる。守ってくれるって言ってくれて嬉しかった。でもどうしたら胸を張っていけるようになるのか考えたい」

あと少しで地平線に夕日が沈みそう。
そう思って見ていると隼人に肩を抱かれ、ギュッと抱きしめられた。

「奈々美は奈々美のままでいい。今のままでもきっとまた奈々美をわかってくれる」

何も答えられずにいた。
ただ、隼人に抱きしめられ、彼の温もりを感じていた。

「どうしたら奈々美は胸を張れる?俺はこんなに奈々美を好きなのに。俺の隣にいるのは奈々美以外考えられないんだ。俺のこの8年、ずっと奈々美を見てきた。見るだけで動かなかったから今こんなことになってるんだよな。初めから阿川に渡さずに俺が奪ってやればよかった。ごめんな、奈々美」

「何言ってるのよ、隼人。今こうして隼人が言葉にしてくれるだけで嬉しい。隼人の隣にいることを認められる人になるよう頑張りたい。ホテルの開業を絶対成功させようね」

「あぁ。もちろん。俺とお前の共同作業だ。絶対に成功させてやる。もちろん企画戦略室だって奈々美を応援してるから。あそこにいる人はみんなお前のことを分かってるよ。お前のこれまでを見てきてるんだから噂なんかに騙されない」

「うん」

私も隼人を抱きしめた。
彼の胸の中にすっぽり収まってしまう私は彼に抱きつくがしっかりとした体に私は背中まで腕が回らない。

「奈々美は可愛いなぁ」

「隼人、最近そればっかり言ってくれるね」

「今まで口に出せなかったからその分な。でもまだ言い足りないよ。奈々美は可愛い。奈々美を愛してる」

そんなセリフを言われ私は顔を上げられなかった。

「ありがとう」

それだけ小声で伝えた。

「耳まで真っ赤。それもまた可愛いな」

「もう!顔を上げられなくなっちゃうよ」

わたしたちは戯れ合うように抱きしめ合い、夕日が沈む瞬間にキスをした。
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