嘘は溺愛のはじまり

「綺麗ですね、すごく……」


その言葉に嘘はないけれど。


「素敵です……」


この言葉にも、嘘は、ないのだけれど……。

それでも、心から、本心からそう口にしたわけではないと言う私しか知らない事実が、更に私の心を痛めつける。

もしも……もしもこれが本当の恋人同士だったとしたら、どんなに嬉しかったことだろう。

どんなにしあわせだったことだろう。

だけど…………。


「結麻さん」


伊吹さんの優しい声に、私の手をきゅっと握る伊吹さんの暖かい手に、ますます涙が込み上げそうになる。

でも、泣くわけにはいかなくて。




私は、奈落の底で、笑ってみせる――。




「……伊吹さん、ありがとうございます」

「うん」




ほら、大丈夫。

伊吹さんは、私の笑い泣きを、疑っていない。

喜びの涙――、そう見えてくれたなら、二度目の演技も、大成功だ。


ねえ。私って、演技うまくない?

女優になれそうでしょ?

主演女優賞、貰えそうじゃない?

レッドカーペット、歩けそうじゃない?


――だけど。

主役の隣に、好きな人はいないのだ。

ひとりだけで、赤い絨毯を歩いて行く。

この絨毯は、ずっと、ずーっと先まで続いているけど、ずっとひとりで……たったひとりで、歩き続けなきゃいけない。

それが、私の選んだ道……。

ちょっと、……ほんのちょっとだけ、寂しい、かな。


だけど、自分のくだした選択だ、責任を取らなくてはならない。

最後まで貫き通します。

だから……どうか、私の演技に騙されたままでいて下さい……、私の嘘を、見破らないで……。


どうか……、

どうか…………。

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