嘘は溺愛のはじまり
「……!?」
リビングのドアの向こうは、なぜだか花で溢れていた。
心臓が、思わずドキリと音を立てる。
「い、伊吹さん、これ……は……?」
「結麻さんと恋人になって、1ヶ月でしょう? だから、お祝いに」
「……っ」
まさか、そんな返事が返ってくるとは思いもしなかった。
恋人……? 偽の、なのに……?
しばらく茫然と飾られた花々を見つめる。
そして、この飾りが、伊吹さんひとりでは到底出来ないであろう事に、気付いてしまった……。
テーブルだけでなく、そこかしこに飾り付けられた綺麗なアレンジメントは、きっとあの女性が……この場に来て飾り付けたはずだ。
……そんなの、どう捉えて、どう考えれば良い……?
私は、どうすれば良いの……?
まだ言葉すら交わしたことがなかったあの頃、私は伊吹さんと彼女が仲良く手を振り合っている場面を、“infinity”で何度も、何度も、行くたびに目にしてきた。
ふたりはとてもとても親密そうで、見るたびにすごく胸が苦しくなった。
今はカフェに行く機会が減っているからそれを目にする事もなくなったけれど、――その代わりがこれなのだとすれば……神様はとても意地悪だ。
私の心を何度でも、奈落の底へと、容赦なく突き落とす。
「……っ」
また、涙を堪える時間がやって来たらしい。
私は笑顔を無理矢理、顔に貼り付ける。