嘘は溺愛のはじまり
私は、きっと、“そう言う女”、なんだ――。
――それは、高校二年生の夏休みのことだった。
私の家は、両親に一人っ子の私の、三人家族。
父はいつも夜遅くならなければ帰宅しないし、母もフルタイムで働いていて留守がちと言う、共働きの家庭に私は育った。
そんな夏休みのある日、母の知人の古田という男性が尋ねてきた。
母から何度か聞いたことがある名前だった。
「結麻ちゃんのお母さんと約束があって。今日は早退して帰ってくるらしいから、家に上がって待っていたいんだけど、いいかな?」
母が私に連絡事項を言い忘れて出掛けてしまうことは日常茶飯事だったので、この日もあまり気に留めていなかった。
きっと、言い忘れただけなんだろう、と。
リビングのソファでくつろぐ古田さんに冷たいお茶を出すと、お礼よりも先に「結麻ちゃん、可愛いね」と言われ……。
私は当たり障りなく「ありがとうございます」と答えて、お盆を仕舞うためにキッチンへと踵を返しかけた、その時。
「……結麻ちゃん、もっとこっちにおいでよ」
声と共に、腕を掴まれて、強く引っ張られた。
私は体勢を崩し、ドサリとその人の上に倒れ込む。
自分が仕掛けたくせにその人は「随分積極的だねぇ?」といやらしい顔でニヤニヤと笑いながら、私の身体を撫で回した。