嘘は溺愛のはじまり

「住んでるアパートも、来月取り壊しが決まって……」

「……えっ、じゃあ、住むところも……」

「はい、無くなっちゃいます……」


はぁ、と思わずため息を吐いてしまった。

お店のカウンター席で重苦しい雰囲気を前面に押し出してしまって、マスターには本当に申し訳ないと思う。

私は淹れていただいたコーヒーをコクリと飲み、心を落ち着けた。


……大丈夫。

うん、きっと大丈夫、なんとかなる。

今までだっていろんな事があったけど、全部なんとかなって来た。

仕事だって、住むところだって、贅沢を言わなければきっとなんとかなる。

……だけど、目の前に迫っている“無職・家無し”の生活を思うと、いやでも気持ちが落ち込んだ。


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