嘘は溺愛のはじまり

きっとこれから先、こんな事は起きないんだろうな。

私の人生の中で、誰か異性とこうやって二人きりにで過ごすことなんて、恐らくもう二度と起きたりしないだろう。

一生に一度の経験を、好きな人と――たとえ相手が私を好きではないとしても――出来た事は、とても貴重で、とても嬉しい経験だった。


気付けば、私の頬を涙が伝っていて……。


「結麻さん、どうしたの? 大丈夫?」

「あ……、ごめんなさい、なんでもないです、あまりにも綺麗だから……」


流れる涙のわけを、私はそう言って誤魔化した。


女の子らしくて可愛らしい涙の拭い方なんて、とうの昔に忘れてしまった。

伊吹さんと繋いでいない方の手で、涙を雑に拭う。

涙でぼやけるからますますイルミネーションが美しく感じるんだ、と自分に言い聞かせて。

涙が流れる本当の理由から、目を背けて。


「結麻さん……」


何か言いたげな伊吹さんの声を、遮断して。

こうなる事は覚悟していたはずなのに、やっぱりまだ、何一つ覚悟できていなかったのだと、今更気付いて……。



――そうやって、お仕事であるはずのデートは、涙で幕を閉じた…………。


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