嘘は溺愛のはじまり
そんなこと、しない――。
自分で言っておいて、胸が潰れる。
偽の関係と言うその事実に、簡単に押しつぶされそうになる。
「若月」
「……なに?」
「泣きそうな顔してる」
「な、泣いてない」
「でも、泣きそうだ」
「……っ」
奥瀬くんの手が伸びてきて……。
触れられるのかと身構えてしまって、びっくりしてギュッと目を閉じてしまった。
だけどどこにも触れられることはなくて、そろりと開けると、困ったように眉尻を下げて笑う奥瀬くんの瞳に出会う。
奥瀬くんの手は、私に触れることは無く既に彼の身体の横へと下ろされていた。
「ごめん。驚かせたかな。でも、涙は引っ込んだみたいだ」
「……最初から、泣いてない、」
「うん、そうだな」
「もう……」
緩く笑う奥瀬くん。
私に触れなかったのは、彼の優しさなのかも知れない。
「ちょっと酔った?」
「……うん、そうかも。飲むの、すごく久しぶりだったから」
「ちゃんと歩ける?」
「大丈夫。さすがにそんなには酔ってないよ」
「うん、でも酔っった女の子をひとりで帰すわけにはいかないから、家まで送る」
結局、奥瀬くんに言いくるめられて、送って貰うことになった。
会社の最寄り駅から、電車で3駅、そこから徒歩5分。
「便利なところに住んでるなぁ」
思わず奥瀬くんも呟いてしまうほどの好立地。
そりゃ、篠宮家の御曹司ですからね。
私は思わず苦笑いする。