何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「この間の金曜日、託児所に電話で言っていただろう?隼輔くんの父親の名前を」


「あ……」



そうだ、思い出した。


託児所の先生が知らない男性が来て混乱しないように、電話口で父親の名前は"鷲尾 隼也"だと伝えていたんだった。


車内で電話していたんだから聞いているのも当たり前だ。


だからあの時、副社長からものすごい視線を感じたのか……。


謎が解けてすっきりしつつも、どこか恥ずかしい。



「……彼とは、腐れ縁と言いますか……幼馴染で。いろいろあって、息子の父親は彼なんです。実は初めて佐久間商事を訪問した日にお伝えしていた古い知り合いというのも彼のことで。まさか社長の子息だとは思っていなかったのであの時は驚いてしまって」


「あぁ、だからあの時少し様子が変だったんだね」


「はい、思わず顔に出てしまいました」


「なるほど。そうだったのか」



納得したように数回頷いた副社長は世間話は終わりとばかりに仕事モードに切り替わり。



「じゃあ会議に行こうか」


「はい」



副社長室を出て営業部との会議に向かった。



< 108 / 116 >

この作品をシェア

pagetop