猫目先輩の甘い眼差し
目を瞑る前に視界に飛び込んできた、大きな瞳。
優しくて、甘くて。
少しだけ、熱と切なさを含んだ眼差し。
「あ、この匂い……」
「はい。付けてきました」
「もしかして、期待してた?」
「そ、そういうわけじゃ……っ」
言い終わる前に再び口を塞がれた。
香りを食べ尽くすように、2回、3回と、角度を変えて唇が重なる。
この前のキスよりも熱く感じるのは、甘く感じるのは。
時間帯のせいでも、リップクリームの香りのせいでもない。
──全部、零士先輩のせいだ。
「世蘭ちゃん、好きだよ」
「私も……っ」
好きです。
息切れしながら言葉を紡ごうとしたその時。
「何、してるんですか……?」
突然、どこからか聞こえた、震える声。
それは、私も先輩も、よく知っている声で。
私からすると、今朝も数十分前にも聞いたばかりで、記憶に新しい。
「郁海……!」
慌てて私から離れた先輩が、階段下にいる樫尾くんの姿を捉えた。
今までに見たことがないほどに、目は大きく開かれており、口元は引きつっている。
嘘……どうしよう。
ドクン、ドクン。
2度、心臓が嫌な音を立てた後。
「世蘭ちゃん……っ!」
荷物を持ち、制止する声を振り切って逃げるようにその場から走り去った。