日溜まりの憂鬱
「この人がさ、美味しいお店に凄く詳しいの。この人が美味しいっていうお店はハズレなしだから参考にしてるんだ」

 見事なまでに料理の写真しか掲載していない知らない誰かのページだ。

「けどお金持ちなんだろうなー。これだけ毎日のようにあっちこっちに出掛けてるんだもん。相当な財力がないと無理よね」

「そうだね。私みたいな専業主婦じゃまず無理だよ」

 専業主婦という言葉に野田さんの眉が持ち上がる。

「仕事しないの?」

「うん。今のところは考えてない」

「子供いないのに時間がもったいなくない? 何かパートとかしたらいいのに」

 余計なお世話。と本音を飲み込んで、菜穂は笑って誤魔化した。

「旦那さんが帰って来るまで何してるの?」

「結構バタバタしてるよ。掃除したり、洗濯したり、買い物に行ったり、ご飯の用意したり」

 腑に落ちない表情を浮かべる野田さんはカルパッチョを咀嚼しながら「それのどこがバタバタなの?」と肩を竦める。

「意外とバタバタするんだよ」

 実際、あこやこれやとしているうちに時間は過ぎ、日が暮れ、気付けば夫が帰宅する時間だ。
 唯一の話相手である夫の帰宅がいつも待ち遠しい。
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