日溜まりの憂鬱
 本日の肉魚料理がついたお勧めランチコースを注文した。
 すぐに前菜のサーモンのカルパッチョが運ばれて来た。イチョウの形にカットされた栗が添えられ秋らしい。
 スマホを向けた彼女は「若い子みたいにSNS映え狙ってるの」と肩を竦めて見せ、撮ったばかりの写真を早速投稿していた。

 すぐにコメントがついたらしい。器用にスマホを操作する野田さんが上目を向け「菜穂ちゃん、インスタしてないの?」

「うん。してないよ」

「面白いよ。やってみたらいいのに」

「うーん。面倒くさがりだから向いてなさそうな気がして」

「大丈夫だよ。写真撮って投稿するだけだよ」

 ただそれだけなら、ね。と胸の中で口にした。

 どこの誰なのか、素性を知らない相手と繋がるのは確かに気楽だ。知らない人間からどう思われても構わないし、嫌になればさっさと辞めればいい。

 しかし現実で繋がりのある人物とSNSで交流するのは日常を監視されているように思えてならない。SNSは出来るのになぜ電話に出ない、なぜラインの返事がない、そんなふうに思われるんじゃないか、と、そこに気を回すことが億劫なのだ。
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