婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

リビングの中央にある丸いフード型の暖炉には火がくべられ、部屋の中はほかほかと暖かい。
キッチンからはコーヒーの香りがした。

L字型の大きなソファの手前に置かれたローテーブルを見て、奈子は思わずギョッとして足を止める。

「あれ、なんですか」

宗一郎がこともなげに肩をすくめた。

「なにって、マリッジリングだろ」

「ま、マリッジ……?」

広いローテーブルに真っ白なクロスが引かれ、その上にはずらりと指輪が並んでいる。

たしかに、ふたりはまだ結婚指輪を選んでいない。
結納も入籍も結婚式の日取りも奈子が気づいたときにはみんな決められていて、婚約報道のことさえ知らされていなかったのだから、結婚指輪をどうするかなんてともて言いだせなかったのだ。

鬼灯家の結婚には、きっとまだ奈子の知らないしきたりがある。

でもまさかジュエリーサロンのショーケースをそのまま家に運んでくるとは思っていなくて、奈子はそばに寄ることも躊躇した。

ソファの反対側に直立していたスーツ姿の男女が、揃って静かに頭を下げる。

「ご結婚おめでとうございます、鬼灯様」

ふたりとも鬼灯家が懇意にしている百貨店の外商員だそうで、宗一郎とは顔見知りらしかった。
幼い頃から成長を見守ってきた宗一郎の結婚を祝えることを喜んでいる。
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