婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

ぎこちなくお礼を返す奈子の腕を宗一郎が引っ張っていき、優しくソファに座らせた。
片手で無造作にテーブルを指す。

「奈子の好きなものでいい」

そう言われて、さっそく進んで物色できるほど奈子は肝がすわっていない。

目の前にはシンプルなリングからルビーやサファイアで装飾された目眩のするようなデザインまで並べられ、気おくれするくらいだった。

それでもなにか選ばなくてはいけないと思い、端から端まで行ったり来たり視線をさまよわせる。
しばらくギュッと口を結んでいた奈子は、ついに宗一郎に助けを求めた。

「そ、宗一郎さんは……?」

眉の下がった深刻な顔を見て、宗一郎が笑う。
サッと手を伸ばすと、テーブルの奥にあったものをひとつ取り上げた。

「俺はこれだな」

奈子の左手を取り、薬指に指輪を通す。

宗一郎が選んだのは、本当のところ、奈子がいちばん目を引かれていたデザインだった。
細くて優美なプラチナのリングで、近くで見ると、クローズドセッティングのダイヤモンドが三粒、繊細に光を放っている。

サイズは少し大きかったけれど、薬指で輝いているのを見た途端、奈子はすっかり気に入ってしまった。
頬を染めていろんな角度から眺めたあと、宗一郎を見上げて小さくうなずく。

「これがいいです」

それで、宗一郎はさっさとマリッジリングを決めてしまった。
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