堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
タロちゃんは、言葉数が少ない。いかにも職人さんという感じ。
昨日一日一緒にいて、彩芽の方は〝タロちゃん〟と呼ぶことにも慣れ、口調も砕けたものになっているが、タロちゃんは丁寧な言葉遣いのままだ。彩芽のことも極力名前で呼ばないようにしているのがわかる。いかにも女の人に慣れていない武骨な感じなのだ。
でも、掃除や家屋の修繕なんかもそうだが、『まつの』のために何かできることはないかと頑張ってくれてることはよく伝わってくる。
真面目で寡黙で義理堅い。本当に武士みたい。あくまでもイメージだが。
「ねえ、タロちゃんは、剣道とかやってなかった?」
突然変な質問が飛んできて、タロちゃんは面食らったような顔をした。
「剣道?大学までやってました。それが何か?」
おっ!!
「じゃあさ、じゃあさ、自分のこと〝わたし〟とか〝俺〟以外に何て言う?」
彩芽が矢継ぎ早に質問を投げかけるので、タロちゃんは困惑しているようだ。
「〝自分〟とか〝僕〟とかは言うと思いますが…」
「〝自分〟かぁ。それも近いけど、〝拙者〟とかは使わない?」
「拙者!?そんなこと言う人今どきいますか?」
質問の意図が理解できないタロちゃんは困っていた。
「うーん、そうか。残念」
残念がる彩芽と、困った顔のタロちゃんを見て、祖母はコロコロと笑っていた。
『まつの』はその日も一日中、お客様でにぎわっていた。いつもなら、途中でしんどいなと思うこともあるが、今日はあまり気にならない。
タロちゃんは真剣な顔で、ぜんざいのお餅を焼き、おはぎの追加を作る。
その姿を見るのが、何気に楽しかった。