堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
ぼーっと歩いていると、「危ないっ!」と腕を強く引かれる。
ハッと前を見ると信号が赤で、目の前を車が通りすぎていった。
「どこ見てるんですかっ!」
叱られて後ろを振り返ると、スーツ姿のタロちゃんがいた。
彩芽の腕を強く掴んだまま、タロちゃんは恐い顔をしている。
タロちゃんの怒った顔を見て、タロちゃんが掴んでいる自分の腕を見る。
タロちゃんの熱が伝わってくるのを感じ、彩芽の目には見る見るうちに涙が浮かんできた。
「タロちゃんのバカ―っ!!」
大きな声で叫びオイオイ泣き出した彩芽に、タロちゃんがギョッとする。
「でも、危なかったから」
彩芽が泣く理由は、今自分が叱ったからだと思ったのだろう。
「怒鳴ってすみません」
おろおろしながら、彩芽を道のわきに引っ張っていった。
ひたすら泣く彩芽の頭を撫で、ハンカチで一生懸命涙を拭ってくれる。いつもキリッとした眉毛が困ったように下がるのを見て、彩芽は泣きながら笑った。
「泣いたり笑ったり、忙しいですね」
タロちゃんはホッとしたような顔をしていた。
ひっくひっくとまだしゃくり上げる彩芽に、タロちゃんはうーんと考えこんでいたが、「晩御飯まだですよね?」と優しく聞く。
コクっと頷くと、「行きましょう」と、また彩芽の腕をつかんで歩き出した。
こんなに泣いたのはいつぶりだろう。心に溜まった重いものが涙で流されたようで、久しぶりにスッキリした。