堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
食事を終えて、駅までブラブラと歩く。
「ちょっと寄っていきませんか?」
タロちゃんが鴨川を指さした。
「鴨川を歩くなんて学生の時以来かも」
笑いながら川べりに続く階段を下りていく。月曜日の夜ということもあり、人はまばらだ。
川のほとりに腰を下ろし、並んで川の流れを聞く。永遠にこの時が続けばいいのに…そう思わずにはいられないほど幸せな気持ちだった。
すると突然タロちゃんが、切り出した。
「今度の日曜日が『まつの』での修行最終日になります」
途端に川の音が大きくなった。今まで心地よかったはずの音が、ざわざわという音に変わる。喉がひりついて声が出せない気がしたが、何とか答えることができた。
「そうか…。そうよね。もう三ヶ月経つし」
タロちゃんから視線を外し、川の方を見る。川は相変わらず、ざわざわと流れていた。
「次の食事は、貴船に行きませんか?日曜日の仕事が終わってから…」
貴船は京都の奥座敷と言われていて、市内から車で50分ほどのところにある。
夏でも涼しく、京都の避暑地と呼ばれる場所だ。素敵な場所だが、夕食を食べに行くには少し遠い。
「貴船?」
「会社、月曜日はお休みにできますか?」
タロちゃんの顔をじっと見る。タロちゃんも彩芽を見つめていた。
川の音が静かになる。彩芽が何て答えるのか、聞き耳をたてているかのようだ。
地面に置いた彩芽の指に、タロちゃんが指を絡めてきた。
彩芽もそっと握り返す。
初めて繋いだ指。
「うん。お休みを取ります」
はにかむように言うと、タロちゃんは静かに微笑んだ。
確認をとるように、タロちゃんは徐々に顔を寄せてくる。
彩芽はそっと目を閉じて、唇を受け止めた。