堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

食事を終えて、駅までブラブラと歩く。

「ちょっと寄っていきませんか?」
タロちゃんが鴨川を指さした。

「鴨川を歩くなんて学生の時以来かも」
笑いながら川べりに続く階段を下りていく。月曜日の夜ということもあり、人はまばらだ。

川のほとりに腰を下ろし、並んで川の流れを聞く。永遠にこの時が続けばいいのに…そう思わずにはいられないほど幸せな気持ちだった。

すると突然タロちゃんが、切り出した。

「今度の日曜日が『まつの』での修行最終日になります」


途端に川の音が大きくなった。今まで心地よかったはずの音が、ざわざわという音に変わる。喉がひりついて声が出せない気がしたが、何とか答えることができた。

「そうか…。そうよね。もう三ヶ月経つし」

タロちゃんから視線を外し、川の方を見る。川は相変わらず、ざわざわと流れていた。


「次の食事は、貴船に行きませんか?日曜日の仕事が終わってから…」

貴船は京都の奥座敷と言われていて、市内から車で50分ほどのところにある。

夏でも涼しく、京都の避暑地と呼ばれる場所だ。素敵な場所だが、夕食を食べに行くには少し遠い。

「貴船?」

「会社、月曜日はお休みにできますか?」

タロちゃんの顔をじっと見る。タロちゃんも彩芽を見つめていた。


川の音が静かになる。彩芽が何て答えるのか、聞き耳をたてているかのようだ。


地面に置いた彩芽の指に、タロちゃんが指を絡めてきた。

彩芽もそっと握り返す。
初めて繋いだ指。

「うん。お休みを取ります」

はにかむように言うと、タロちゃんは静かに微笑んだ。

確認をとるように、タロちゃんは徐々に顔を寄せてくる。

彩芽はそっと目を閉じて、唇を受け止めた。

< 52 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop