堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

やってしまった!!
つい頭にきて、余計なことをベラベラと…

でも我慢できなかってんもん。
じくじくと自分に言い訳をする。

秘書課に戻るのが嫌で、無駄に給湯室を掃除しながら時間を稼ぐが、そんなに籠ってはいられない。仕方なく自分の席に戻った。

「どうかしたの?」

美鈴さんに心配をかけてしまったようだ。

「いやー、ちょっと…」
もごもごと口を濁す。

「御影副社長は?」

「今、お帰りになったわよ」

よかった、最後に会わずにすんで…

ホッとしたときに、「松野さん」という結城お代官様の声がする。裁きの場に召喚されるようだ。

「…行ってきます」

「なんだかよくわからないけど、がんばって!」

美鈴さんの応援を受けて、罪人のごとく副社長室に戻る。
神妙な顔で中に入ると、渋い顔の結城さんと、なぜか笑顔の副社長、落ち着きを取り戻した百合ちゃんが待っていた。

「スミマセンでした…」

縮こまって謝るしかない。副社長のお客様に対して、あの態度は言語道断だ。

「松野さん…」

結城さんが言いかけたところを、副社長が「まあ、待て」と止めた。

副社長はまたククッと笑う。

「松野はおとなしいのに、意外と勇ましいところがあるんやな。御影をかばってくれてありがとう。うちの秘書課が誇らしかった」

優しく声をかけられて、戸惑う。

「いえ、あの、スミマセン…」

「でも、客に対して、あんな風に感情的になったらあかんな。そこは反省して」

「ハイ。モウシワケアリマセンデシタ」
注意を受けて、深く頭を下げて猛省する。
副社長は、百合ちゃんにも声をかけた。

「御影は、いい先輩を持ってよかったな。残り少なくなったけど、最後までしっかりと勤め上げてくれ」

「はい。よろしくお願いします」
百合ちゃんも小さな声で答えていた。

結城さんは何か言いたげだったが、副社長から下がってよしと判断される。百合ちゃんと二人で、副社長室を後にした。


「ごめんね、百合ちゃん。お兄さんに対してあんなこと…」

「いえ、彩芽さん。本当にありがとうございました。あんな風に言ってもらえて、私、とても嬉しかったです」
百合ちゃんは、穏やかな表情で言った。

「見て分かったと思うんですが、兄はいつも威圧的なんです。私は小さな頃からずっと愚図だとか、のろまだとか言われてきました。ここに入社したときも、自分は愚図だから失敗したらどうしようって、そんなことばかりが気になって。本当にいろいろとご迷惑をおかけしました」
百合ちゃんは立ち止まって、頭を下げた。

「でも、ここに来て私にもできることがあることがわかって嬉しかった。彩芽さんや美鈴さんのような先輩にも出会えて、本当に幸せでした」

百合ちゃんは、晴れやかな顔でそう言った。

席に戻ると、心配そうな美鈴さんが席で待ってくれている。そこで、百合ちゃんは美鈴さんと彩芽に向かって、報告をした。

「私、来年の三月でくらき百貨店を退職することになりました。残念ですが、ここで学んだことを新しい場所で活かせるように頑張っていきます。残り三ヵ月ほどになりますが、最後までよろしくお願いいたします」
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