堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

翌日から、ワイドショーやニュースで、タロちゃんは大きく取り上げられるようになった。

国際製菓コンクールで初めて日本人が金賞を取ったということに加えて、タロちゃんがパティシエではなく、和菓子職人だということが話題になったからだ。

『日本の技術が世界をあっと言わせた』『和の食材が世界に受け入れられた』など大反響だ。

容姿のいいタロちゃんは、『和菓子王子』ともてはやされている。
でも、タロちゃん自身はマスコミの取材を一切受けていないらしい。それも関心を高める要因のようだった。

話題が下火になる前に、タロちゃんが経済誌でインタビューを受けるということが発表された。

週刊誌や女性誌、和菓子の業界紙でもない。なぜ経済誌?と話題になる。もちろん彩芽も気になって、発売初日に購入した。

急いで家に帰り、気を落ち着けてページをめくる。するとそこには、驚くべきタロちゃんの素性が書かれていた。

『和泉篁太郎氏 36歳。株式会社「京泉」和泉賢太郎代表取締役の長男で副社長』

インタビューの合間には写真が数枚載せられている。コンクールの時とは違って短髪だ。少しウエーブがあるふわっとした髪。

あの時の男の人、あの人はやっぱりタロちゃんだった。

穏やかに笑うタロちゃんは、彩芽が知っているタロちゃんとは別人だ。

彩芽は呆然としながら記事を読んだ。

『和泉篁太郎氏は今まで副社長職と『京泉』本店の和菓子職人を兼任で務めていたが、来期から副社長の職務に専念することが決まっている。そこで、和菓子職人としての最後のチャレンジで国際製菓コンクールに参加し、金賞を受賞。四月からは、神戸の老舗洋菓子店「御影堂」とタッグを組み、和と洋を融合させたスイーツの店「カフェ・ド・イリス」を始動させる。「カフェ・ド・イリス」の店舗形態はカフェだが、ケーキ類の小売りも行う。コンクールで金賞を取った「彩芽」は「カフェ・ド・イリス」で販売する予定』

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