堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
部屋のベルが鳴った。
「お客様?」
驚いて聞く。彩芽もタロちゃんも、バスローブのままなのだ。
「服を頼んでた。ここには、昨日脱いだ着物しかないからな」
タロちゃんはそう言って、扉を開けに行った。
昨日彩芽たちのお世話をしてくれていた黒服さんと、秘書と思われるあの綺麗な女性が、大きな荷物を持って入ってきた。
「こ、こんな格好でスミマセン…」
彩芽は動揺してあたふたした。
「いいのよ。拉致られて連れて来られたんでしょ?大丈夫?」
彩芽は真っ赤になって下を向いた。
「ハイ、ダイジョウブデス」
いきなり、秘書さんはタロちゃんの頭をパシッと叩いた。
「アンタ、彩芽さんを抱いて連れ去ったんだって?恥ずかしい。いい年してがっつくな」
「いてっ」
彩芽が目を丸くして見ていると、秘書さんはにっこりと笑った。
「篁太郎の姉の葵(あおい)です。今は結婚して藤島っていう名字だけど、『京泉』では篁太郎の秘書をしてるの。よろしくね」
「!!」
和泉家が三人姉弟だったとは…
葵さんは、彩芽の服一式を持ってきてくれた。暖かそうなニットワンピースとショートブーツ。下着も化粧品も全てある。
「着物はクリーニングに出して『まつの』に届けるから。引き取っていくわね」
彩芽は脱ぎ散らかした着物を急いで片付けた。頂いた高級な着物をこんな風にしてしまって。穴があったら入りたい…
恐縮しながら手渡した。
葵さんは、タロちゃんの着物もすべてテキパキと片付け、黒服さん(タロちゃんの第二秘書らしい)にいろいろと指示を出す。
その様子はいかにも〝できる秘書〟という感じだ。彩芽もいちおう秘書だが、『秘書です』と名乗るのも恥ずかしい。
「今日は和泉の関係者は、みんなここに泊まってるの。昼食はみんなで取る予定なので、彩芽さんも来てね」
葵さんはそう言い残して忙しそうに去っていった。
「タロちゃんの秘書はお姉さんだったのね」
嵐が過ぎ去って放心状態になる。
「あぁ」
タロちゃんが憂鬱そうに言った。
「猛烈やろ?四月からは、しばらく新次郎につく予定や。新次郎は今からゲンナリしてる」
「家族で仕事するのはいいね。楽しそう」
彩芽はハハハと笑った。
年の離れた末っ子はさぞかし、〝出来るお姉さん〟に翻弄されるだろう。
タロちゃんは嬉しそうに、彩芽をギュッと抱いた。
「彩芽も一緒に頑張ってくれるか?『京泉』を一緒に守っていってほしい」
タロちゃんの目を覗き込んで訊ねる。
「それってプロポーズ?」
「それ以外に何がある?」
タロちゃんは、訝しげに聞き返す。
「私でいいのかな…」
「彩芽以外に誰がいると言うんや」
温かいもので胸が満たされる。彩芽はタロちゃんの腕の中で、静かにコクリと頷いた。