ままになったら極上御曹司に捕まりました?!
そういって、向こうの社長と別れ車へ向かう。

今回の仕事も、やりがいがありそうで楽しみだ。

「社長、先程渡しそびれた資料、届けてくるので先に車へ戻っていてください」

「あぁ、わかった」

蓮は元来た道を戻って行く。


にしても、この公園は本当に子ども連れが多いな。

楽しそうな子どもの声が耳に入ってくる。

この場所に自分の会社が企画して、構想をねったショッピングモールが出来るのはすごく感慨深い気分になる。

来てくれる人にとって、楽しくて便利で、そんな場所になればいい。

そう思いながら、駐車場へ向かう。

他の社員は先に旅館へ行ったようだ。うちの会社の車がもうほとんど停まっていない。

ふと、反対側の道を見ると、子ども連れのお母さんが自販機の前に立っていた。

なぜかわからないけど後ろ姿が、よく見ていた彼女の姿に見えてくる。

ピンと張った綺麗な姿勢、1つにまとめられた髪。

彼女であるはずが無いのに、昔のことを思い出す自分がいた。


にしても片手で子供を抱きながら高さのある自販機のボタンを押すのは一苦労だろう。

なぜか高いところに設置された自販機は、かなり不便のように思われる。

自然と体は自動販売機の方へ向かっていた。

腕も伸ばしているお母さんの後ろからボタンを代わりに押す。

「あ、ありがとうございま……」

後ろから急に現れた俺に驚いたのか、彼女はすぐに後ろを振り返る。


えっ………………?


自分の目を疑う。何度も会いたいと思い焦がれた彼女に見えたからだ。でも子供を抱いてるし……。

とうとう俺はおかしくなったのか、と思ったがいくら見ても彼女の顔のままである。

とりあえず、何か言わなきゃと思い、咄嗟に出た言葉がこれ、どうぞだけだった。

彼女の方も俺を見て驚いたのか、普通にしてても大きな目が、さらに丸くなる。

「あ、ありがとうございました」

そういって彼女は俺から背を向ける。

何か言わなくては、そう思った俺は彼女の背中に声をかける。

「あ、あの…すみません」

「はい?」

彼女が振り返る。

声はかけたものの、咄嗟のことで言うことは何も考えてなかった。

いや、それでも子どもを連れてる女性に向かって過去の話をするのは良くないだろう。

それに彼女の様子からは俺を避けたいのが伝わってくる。

「いえ、すみません。私の知り合いかと思ったのですが、人違いでした」

そういって、元来た道を戻る。

なぜ彼女がここに?会社を辞めて、どこに行ったのかもわからなかったのに…。

この町に暮らしているのだろうか。

車の中に入ってからも、ずっと考え込む。

答えが出ることはないけど、彼女だけが今も、昔も俺の心を支配していた。

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