さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 ホタルを八畳ほどの座敷に案内して、窓を開け放つ。さすがに熱気がこもっている。

「そこ、座って。あー、うちにジュースとかないな……。麦茶でいいかな?」
「うん。麦茶好き」

 ふわっと花が咲いたように、ホタルが無邪気に笑った。ずっと無表情だった子供が初めて見せた笑顔に少し感動する。なんだ、子供らしい顔もできるんじゃないか。

 氷を入れた麦茶を用意して、座敷に戻った。
 昔ながらの造りのこの家はリビングルームやダイニングルームという区分けもなく、和室が田の字型に四部屋並んでいる。庭に面したひと部屋を祖母が寝室として使い、その隣が茶の間、日当たりの悪い奥の部屋を透が寝室にしていた。

「さて、と。じゃあ、ホタルちゃん、おじ……おにいさんの名前は透って言うんだ。夏越透」
「ナゴシさん」
「透でいいよ」
「トオル」
「呼び捨て!? ……まあ、いいか。それで、きみはどうしてその写真を探しているの?」

 ホタルは正面の座布団に腰を下ろした透を静かに見つめた。まっすぐな視線なのに、なぜか目が合っていない気がする。
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