桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

その日の夜、棚の上に置いてるお父さんの写真を眺めた。

「‥‥‥ねぇ、お母さん」

「んっ?」

「お父さんは、幸せだったかな?」

そう尋ねると、お母さんは笑顔で答えてくれた。

「とっても幸せだったと思うよ」

お母さんが言った通り、写真には幸せそうな笑顔を浮かべているお父さん。

いつだって、お父さんは笑顔だった。

仕事から帰ってきた時も、疲れた顔なんて見たことがなかった。

休みの日には、いろんな場所に連れて行ってくれた。

お父さんと一緒に過ごした日々を脳裏に蘇らせていると、お母さんはなにか思い出したように手を叩いた。

「そういえば、蒼に言ってなかったことがあるんだけど」

「‥‥‥?」

「あの日、事故直後、お父さんはまだ意識があったの」

「えっ?」

お母さんの言葉に耳を疑う。

昨日、お母さんには事故直後を思い出したことも、私たちが付き合うようになったことも話した。

けれど、あの日、お父さんがまだ意識があったなんて知らなかった。

「その時、蒼はまだ気を失っていたから分からないと思うけど、お父さんは傷だらけになりながらも振り絞る声で言ってくれたの。『香織、蒼、ありがとう。愛してる』って」

香織はお母さんの名前。

“愛してる”って‥‥‥。

その言葉に嬉しくなって、次から次へと涙が溢れ落ちる。
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