彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
美味しいディナーを満喫しスイートルームに入ると、将和さんは直ぐに私を抱きしめてきた。

甘いデザート味のキスに身体の奥がキュンキュンする。
そのままベッドになだれ込み、シャワーを浴びたいと言うヒマも与えられずいつもより性急に身体が重ねられる。


ーーー髪を撫でられる感触に気づいて目を開けた。

「私、寝てた?」
「ああ、でも15分くらいだよ」

夫の腕の中で髪を撫でられている。
身体はだるいけれど、触れ合っているところが気持ちいい。
彼の胸にスリスリと頬を寄せていく。うん、夫の匂いだ、落ち着くわ。

「麻由子、さっきの話だけど」
「うん」

「30過ぎたおっさんが女子高生に惚れるなんて自分でも信じられなかったんだ。健斗との勝負の指南役をしていてずっとかわいいなと思っていた。麻由子に逆プロポーズされてはっきりと自覚した。だから黙って静岡に転勤したのに麻由子は追いかけてくるし。・・・だったら我慢できなくなるじゃないか」

「あの時はなにもしてもらえなかったけど?」

「できるか。相手は女子高生だぞ。もう必死で我慢した」

え?そうだったの?

「世間には麻由子にふさわしい若くて有望な男達がいるのを知っていたからな。それなのにお前は休みの度に静岡に来るし。だったら逃がしてやるのをやめてきちんと自分のものにしてもいいかと」

あれ?

「それで、麻由子の両親のところに婚約のお願いに行ったんだ。結婚は大学卒業まで待つつもりだったけど、ご両親は麻由子の猪突猛進型の性格を心配して早く結婚した方がいいと言ってくれたからね。ありがたくそうさせてもらった」

わたし聞いてませんけど。

お泊まりさせた責任を取って早々に結婚したんじゃないの?
うちの親も何も言ってなかったし。
それにしても猪突猛進型の性格ってさーーー間違ってないけど。

私の髪を撫でる手が止まる。
「後悔してるのは麻由子のほうだと思ってた」
「なぜ?」

「麻由子は若くて綺麗なのにこんなおじさんに捕まって。同じ年頃の子が楽しく過ごしているときに麻由子は子育てに追われて、こんなはずじゃなかったって思ってるんじゃないかって、俺はいつも不安だったよ。暫く二人で過ごそうと思っていたのに、結婚して直ぐに妊娠させてしまったし」

「馬鹿なこと言わないでよ」
私は半身起き上がり、両手で将和さんの頬を挟み込んだ。

「私は将和さんと一緒にいたいって言ったでしょ。良樹の世話だって大変なこともあったけど、将和さんが助けてくれたし、お義母さんもうちの母だって。こんな幸せな10年なかったけど。それをあなたが否定しちゃう?」

「そうだな、ごめん。でも、だったら麻由子も俺に謝らないと。俺自身のことはこれっぽっちも後悔してない。疑われてたなんて傷ついたな」

「うん、ごめんね」

将和さんの唇にそっと唇を重ねた。

ここがこれからも私の居場所。






猪鹿蝶

fin



※ 猪鹿蝶
諸説ありますが、子孫繁栄、財運、魂(命)を表す三つの言葉を組み合わせた猪鹿蝶は花札の役としては中堅で単独では点数は高くありませんが、とても縁起がいいものと言われています。

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