彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
「三嶋。それ、いつまで挽いてんの」

いつの間にか後ろに竜が立っていた。

「び、びっ、びっくりした。ーーーコーヒー豆は熱を入れないようにゆっくり挽くのがいいのよ」

「ふうん。俺あんまりコーヒーに詳しくないから。そんなものか?」

「そう。そんなもの」

もう一度ゴリっと回してペーパーフィルターに移した。
竜はキッチンの壁にもたれてこちらをずっと見てる。

「ねえ、そこでずっと見てるつもり?」

「ダメなの?」

「いいけどね・・・」

本当はよくない。
横から竜の視線を感じる。ずっと見られてたら気になって仕方ない。

細口のドリップポットで少しだけゆっくりとお湯を注ぎ、蒸らす。
それからゆっくりと静かにお湯を注いでいく。
ペーパーに当たらないようにぐるっとーーー

ふわっとコーヒー豆の香りがキッチンに広がっていくと、ざわざわしていた気持ちが少し落ち着いてきた。

暖めていたカップにサーバーからコーヒーを注いでトレイに乗せた。

「できたわよ。向こうで飲むでしょ?」

ね?と竜を見ると「ああ、そうだな」とおとなしくソファーに移動してくれた。

さっきから様子のおかしい竜になんだか調子が狂ってしまう。
一体どうしたっていうんだろう。


二人並んでコーヒーを口をつけた。
うん、深い味わい。今日も安定の美味しさ。

「…うまい」

竜は思わずという感じで呟いていた。

そうでしょ、そうでしょ。
竜が味がわかる男で良かったよ。
ひとり暮らしの自宅にミルがあることからわかってもらえると思うけど、私はコーヒーを淹れる事に対してちょっとこだわりがある。

「・・・これ、あの人ーー高橋さんも飲んだことあるの?」

「高橋さん?エントランスフロアにあるレセプションルームを使う時はお茶出しをしたことはあるけど、コーヒーマシンを使ってるから、こんな手挽きしたものは会社では出したことない」

「そっか」

「それに、竜は知ってるかもしれないけど、彼女ってコーヒーより緑茶が好きなのよね。だから私たちエントランスフロアのスタッフは指定がない限り彼女とそのお客様には日本茶を出しているの」

「ーー彼女?」

「うん。海事の休憩室には世界中のコーヒー豆や茶葉が置いてあるけど、日本茶の美味しい茶葉は無いって言ってた。そうなんでしょ?
エントランスのお茶は秘書室と同じものを使っているから高級品なの。だからレセプションルームを使うときは美味しい日本茶を味わってもらおうと思って」


ああ、でも妊娠とかしたらカフェインレスのものを出さないといけないな。
まだ支社にいる旦那さんとはまだ別居婚だし、彼女が支社に異動するまでしばらくは妊娠って話にならないような気もするけれど。
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