彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~




翌日には
大荷物を持った竜が私の部屋に現れたと思ったら、寝室のクローゼットに竜のスーツがかけられ、私のベッドの枕は2つになった。

更に週末には一緒に住むのだからとうちの両親に挨拶に行くし、次は竜の実家に挨拶。その次の日には新居探しとやらに連れ回され、疲れ切ってソファーに倒れ込めば竜がお風呂の準備、夕食の支度と甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

急転直下の勢いで色々なことが決まっていき私の頭が追いついていかない。
しかし、流されるだけではいけない。私も竜に色々と物申しておかないと。

昼間は仕事だから、夜にしっかり話をしようと思うのだ。

私が話をしようとすると、
「話は夕食を食べてから」とお肉のいい匂いで誘い、後回しにされる。

その後はーー

「眼精疲労?眉間に薄らとしわができてるよ」

ええっ、マジで?と慌てて眉間をぐりぐりすると、

「ソファーに座って力を抜いて。ちょっとマッサージしてやるから」

そんな言葉に誘導されて座れば、器用な仕草でヘッドスパもどきの頭皮マッサージが始まって、あまりの気持ちよさにうとうとしてしまう。

もみっ、もみっ、もみっ。
ぐり、ぐり、ぐり。

ああ、気持ちいい。
究極の癒やし。自宅にいながらこのマッサージ。
しかも無料。


「ーーー今日は川居商事の営業さんに夕食に誘われたって?」

え?

もみ、もみ、もみ
「執拗にアドレス聞かれたとか」

ええ?

もみ、もみ、もみ
「昨日はランドロム社の営業だったか。ああ経理の春日さんにも誘われてたみたいだな」

えええ?
どうしてそんなこと知ってるの。

私の顔にはタオルが掛けられていて竜の表情を窺い知ることはできない。

ぐり、ぐり、ぐりーーー
「もちろん、誰の誘いにも乗ってないし、アドレスは教えてないよね」

・・・いつもより竜の声が低いのはたぶん気のせいだ。
聞こえなかったことにしよう。

黙っていると、気持ちいいところを押してくれていた竜の手が止まる。

「三嶋、お前の彼氏は誰だっけ?」

急に耳元に感じた竜の囁き。
ぶるりと身体が震える。

耳に、首筋にと竜の唇が落ちてくる。
やばい、ぞぞぞっと甘く痺れるような感覚が足の先まで走っていく。

「え、え、えーっと・・・竜之介さんデス?・・・」

「だよね。お前に限って滅多なことはないと思ってるけど、俺の愛が足りないと思わせないように気をつけるとしよう」

何やら不穏な言葉と同時に胸元にチクリとした甘い痛みが。


「愛莉は黙って俺に愛されてればいい」



こんなタイミングで、初めて名前で呼ばれて、気がついたら私の左手の薬指には指輪がはまっていて。

全てがなし崩し的に進んでいるのはわかっているのに、



ーーーわたし、タヌキの甥っ子に完落ちです。





春一番







< 63 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop