彼女の居場所外伝 ~たんたんタヌキ~
あかよろし
ーーあかよろし

花札の赤い短冊に書かれている言葉。
実に素晴らしい、明らかに優れているという意味ーー





「本当に美人だよね、麻由子ちゃん。結婚するような年の子どもがいるようには見えないよ」

珍しく企業パーティーに参加した40年来の親友のカンちゃんが恩人の息子の隣を歩く我が妻の後ろ姿を見て呟いた。

息子の良樹が結婚をしたい人がいると言ってきたのは先週のこと。
まだプロポーズはしていないらしいが、良樹はその彼女のことを逃すつもりはなさそうだ。

結婚したい相手とは、おそらく佐本さんのことだろう。俺と妻はもちろん賛成した。
妻は早く正式に会わせろと言って良樹を困らせていたくらいだ。


妻の麻由子はもう46歳になるというのにまだ30代にしか見えない。夫である俺はもうアラ還だというのに。


「麻由子には隣を歩く健斗の方がお似合いだな」

「マー君、それ本気で言ってる?」

カンちゃんがつぶらな瞳をまん丸にして首を傾げた。

「健斗は麻由子ちゃんが初恋の人でしょ。それをかっさらっといて今更何言ってるの」

カンちゃんの言う通り、当時まだ中学生だった健斗は少し年上の麻由子のことが好きだったのだと思う。

二人が並んでいるところを見る度に、健斗から麻由子を横から奪うようにして結婚してしまったことを今でも少し申し訳なく思っている自分がいる。

42歳の健斗、46の麻由子。

年齢相応に落ち着き、いい男になった健斗、
まだ30代後半と言っても通用するほどの若々しさと美しさを持つ麻由子。

二人が並んで歩く姿を見る度に年々老いていく自分と大人の男になっていく健斗とを比較して言いようのない気持ちになる。

「マー君、そんなに格好良く年齢を重ねてるのに、自分に自信がないの?今でもモテモテの癖して」

そんなことを言うカンちゃんは20年ほど前に年齢を重ねることをやめたようになぜか外見が変わらない。
それに反して中身はどんどん腹黒くなっているけれど。

「やだやだ。見た目に自信がありすぎたから加齢を受け止められないんだね。誰だって年を取るんだよ」

「そんなことはわかってるさ」

若い頃は虚勢を張ってぴりついていたこともあった。
でも30を過ぎて麻由子と結婚してからの自分はプライベートが幸せすぎて仕事での緊張感を家に持ち込むことがなくなり、穏やかになったと自覚している。

そのせいか少したるんで、所謂イケオジとは違う路線に進んでしまったような気がしてならない。

それに引き換え、麻由子はますます綺麗になっている。
先日も美魔女だと言われていたっけ。

ま、本人は後で「”魔女”ですってっ。失礼ね。そこは美女でよくない!?」とおかんむりだったが。

「麻由子ちゃんがずっと綺麗でいるのはマー君のためなんだから。自分が綺麗なことでマー君が引け目を感じてしまっているって知ったらまたおかしな事をしかねないよ~」

何せあの麻由子ちゃんだからね、と
カンちゃんが恐ろしいことを言い出した。

「この四半世紀以上の時間、あの子の行動の原動力は全部マー君なんだよ。わかってる?」

主催者サイドの重役や他の招待客に囲まれた健斗と麻由子達に目を向けると、輪の中心で麻由子が鮮やかな笑顔を見せていた。
健斗と顔を見合わせて会話している様はやはり似合いの二人だと思わざるを得ない。


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