政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
学生時代、いい成績を収めたって〝社長令嬢だから〟。いい行いも、きちんとした身なりも、言葉遣いも、挨拶も。全部〝社長令嬢だから〟で、そこに隠れた私の努力は無視されて誰もみようともしてくれない。
〝宮澤春乃〟は、〝レイドバッグホームズの社長令嬢〟で、そこに私はいない。
肩書しか見られないし、良くも悪くも、私のすべてがそのおかげで、そのせいなのだ。
そういう対応をこれまでの二十四年間受けてきた。
もう、うんざりだった。
体の中身、ほとんどが苛立ちで溢れ溺れそうだ。
涙がじわじわと浮かんでくる。
柳原さんはおどおどして私を見ていた。
「印籠……」とポツリと私がこぼした声に、柳原さんがキョトンとして聞き返す。
「印籠?」
「そう、印籠みたいなものなの。〝社長令嬢だから〟って言われたら、私は黙るしかなくなる。私が悪者なの? なにもしてないのに? ただ、社長をしている父親のもとに生まれただけで、この先ずっと無責任に他人からその印籠出されたら黙って我慢するしかないの?」
「あの、落ち着い……」
「無理だよ。沈黙は金だって、おじいちゃんから教えられて育ってきたし、実際に何十回って沈黙してやり過ごしてきたけど、ずっとなんだもん。同じところをずっと傷つけて抉られたら、黙ってるなんて無理だし、たまには爆発しないとどうにかなっちゃう」
喉を通る呼吸が震える。
涙をこぼすまいとぐっとこらえると、空咳が二度出て、その振動で頬が痛んだ。
「私だって、痛い」
目を伏せ絞り出すように声にする。
「私は、別にそこまでひどく言ったつもりじゃ……」
ややしてから柳原さんが言う。
視線を床に落としたままだからどんな顔をしているのかはわからないけれど、焦っている声だった。