政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


『春乃さんは変わらず元気ですか? 秋斗からたまに話は聞いていて、落ち込んだりもしている様子だったので少し気になっていて』

提携先の社長相手ではなく、友人の父親相手にギアを入れ替えて聞いた俺に、宮澤社長は苦笑いを返した。

『それがなぁ。たまに恋人もできるようだが、すぐにダメになるようで……春乃も多少意地っ張りな部分はあっても、そこまで扱いづらい子でもないと思うんだけどなぁ』

春乃のどこが悪いのかに頭を悩ませる社長に、わずかな申し訳なさは感じたので、すぐに解決策を提案した。

『実は、最近周りが結婚を急かすんです。気持ちはわかるんですが、どうも相手がいなくて……私も他から見たら扱いづらいのかもしれないですね』

苦笑を浮かべて告げると、社長はすぐに表情を明るくし『だったら――』と俺の望んだ通りの未来を口にしたのだった。

俺の結婚を両親が異常なほどに喜んだのは、俺がこれまでそういった話を一切しなかったからだろう。個人的には結婚するかしないかが人生の豊かさを左右するとは思わないが、周りの基準は、特に親の世代はそこを重視するのも知っている。

結果的にいい親孝行となったなら一石二鳥だと思った。

そこからは、春乃が過ごしやすいようにと引っ越しをし、部屋を整えた。

そこまでしてようやくして目の前に現れた彼女が発した『初めまして』には眉をしかめたくなったし、必死に婚約破棄に持っていこうと努力する姿は可愛らしく見ていたし安心もした。

予想した通り、〝経済力〟は二の次で、彼女が求めているのが愛情だとわかったから。

ずっと秋斗から聞かされ続けていた彼女との生活は新鮮で、充実したものだった。
元から好意は抱いていたが、新しい一面を知るたびに、想いは膨らむばかりだった。

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