政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい
「お父さんがね、春乃ちゃんの希望通りの相手を見つけてきてくれたの。ほら、春乃ちゃん、経済力で相手を選ぶって言ってたでしょう? 日本中どころか海外にまで手を広げる大企業の御曹司よ。きっと春乃ちゃんも気に入ると思うの」
「……え?」
「あ、もう相手の方は快諾してくれているから大丈夫。衣食住全部あちらで用意してくださるって話だから、春乃ちゃんは何も準備せず身ひとつでいいって」
『恋愛結婚なんてしない』『経済力で相手を選ぶ』
それは、私が失恋するたびに言っていた言葉だ。言葉、だけれど……。
だってまさか本当に両親がそんな相手を用意してしまうなんて誰も思わない。
子どもの言う〝絶交だからね!〟と同じレベルの、ついカッとなってこぼれてしまっただけの意味なんてないものだったのに。
母からの突然の言葉がうまく思考回路を通って行かず、頭がクラクラしていた。
「春乃ちゃんの希望通り、素敵なお話でしょう?」
それでも、『経済力で相手を選ぶ』と散々口にしてきた自覚があるだけに、ニッコリと笑顔で言う母に反論なんてできなかったし、天国の祖父に心の中でごめんなさいと謝るほかなかった。
誰がなんと言おうが、どんな飲み込めない思いがあろうが、沈黙は金なのだ。