政略夫婦が迎えた初夜は、あまりに淫らで もどかしい


「……思い出した。ロールキャベツって地味に面倒なんだった」

〝THE・手料理〟で〝しかも簡単なやつ〟と聞けばよかった、と思いながら、茹でて水気をとったキャベツの葉に具だねを巻いていく。

絆創膏を貼っている左手に薄いゴム手袋をしての作業なのでやりにくく余計に時間がかかってしまう。
仕事後の体で玉ねぎとニンジン、シイタケのみじん切りをこなした時点で嫌な予感はしていたけれど、ロールキャベツはやっぱり手順が地味に多く面倒だ。

巻き終えた端がほどけないよう短く折ったパスタで数ヵ所留めてから次に移る。

ニンジンもシイタケも中途半端に残っているので、ロールキャベツはスープにして全部一緒に煮込んでしまおうと予定変更する。
蒸すよりもその方が楽だ。

一般的な家庭料理は母に教わったので料理はできるものの、気が乗った休日にキッチンに立つのと仕事後強制的にするのとでは大変さがまったく違う。

今、この時間、私と同じようにキッチンに立っている人を労いたい気分だ。偉すぎると思う。

鍋のお湯が沸いたところにロールキャベツやら野菜やらベーコンやらを入れ、蓋をしめる。味付けは十分火が通ってからでいい。
あと買ってきたパンがあるから、それと……とメニューに悩む。

家庭的な女性はきっと、夕食にテーブルに並べる品数だって多いはずだ。手は抜けない。

作り置きしているひじきは合わないから、昨日の残りのブロッコリーを茹でて、あともう一品くらい……と考えていたとき、フルーツ缶詰が目にとまる。

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