愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
ロンドンの邂逅
[1]

婚礼から遡ること一週間前。四月も残すところあと三日というその日、わたしは日本から九千五百キロも離れた場所にいた。

イギリスはロンドン。その西欧で二番目に古く歴史のある植物園、【Chelsea(チェルシー) Physic Garden(薬草園)】に一人で来ていた。


「ここに来るのもこれが最後なんだ……」

呟きがベンチの足元にポツリと落ちた。

最後に大好きな場所をまぶたに焼き付けようと来たのに、さっきから込み上げる涙が邪魔をする。

カモミールの白い花も、コモンタイムの薄紫の小さな花も。
園路の芝生とこんもりと茂るハーブの奥に見える、レンガ造りの瀟洒(しょうしゃ)なアパートメントも。

みんな滲んで揺れている。

故国よりも冬が長く夏が短いこの国で、待ち望んでいた季節のはずなのに、今のわたしにはそれを楽しむ余裕なんてない。
帰国後に待ち受けるものから、逃げ出したくてたまらない気持ちを必死に耐えていた。
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