愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
略奪婚の舞台裏
[1]

七月になり、梅雨真っ盛りで愚図ついたお天気のことが多いけれど、それでもたまに晴れると盛夏を思わせる暑さになることもある。

今日がまさにそんな日だった。

帽子のツバが作る小さな影を踏みながら、わたしは駅前の道を一人歩いていた。妊婦健診の帰りだ。

祥さんの家は駅からまっすぐに上っていった小高い場所にある。病院までは歩いて十五分。帰りは上り坂だからもう少しかかるかも。
健診へはタクシーの送迎で通っているから、まだ歩いたことはないのだけど。 

安定期に入ったら散歩がてら歩くのもいいな。
そんなことを考えながら、ゆっくり駅のタクシー乗り場へ向かっていた。

行きはいつものタクシー会社の運転手さんにお願いして送ってもらったけれど、帰りは百貨店に寄るため、あらかじめお断りしておいた。

百貨店で買ってきたのは国産レモン。
レモンスカッシュに使うレモンのはちみつ漬けがなくなってしまい、新たに作るための国産レモンが欲しかったのだ。
幸いなことに、地下の食料品の産直コーナーでとても綺麗で美味しそうな瀬戸内レモンを買うことが出来た。

ついでにベビー服も見たけれど、さすがにつわりであまり長くはいられないから、少し覗いただけ。
赤ちゃんのものは、今度祥さんと一緒に見に来れたらいいなぁ、なんて考えながら百貨店を後にしたのだった。
< 124 / 225 >

この作品をシェア

pagetop