愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「黙って勝手にイギリスに行ったことは、本当にごめんなさい……反対されるのが怖かったの……行きたいと言っても絶対行かせてもらえないって思って……だから、」

「そうなのね……あなたは昔から森乃やをよく手伝ってくれていたから、てっきり森乃やが好きで、いずれ女将を継ぐ気持ちもあるのだと……親の勝手な願望で思い込んでしまっていたのね……」

そう言って「はぁ~」と重たい溜め息をついた母に、わたしは慌てて口を開く。

「ちがうの、森乃やが好きな気持ちは嘘じゃない。お父さんとお母さんが一生懸命守っているのを端で見てきたし、従業員のみんなのことも家族みたいに思ってる。わたしだって森乃やが無くなるのはイヤなの……でも、『女将になりたい』と思ったことは一度も無くて……」

わたしは性格的に、経営者向きじゃない。従業員を取り仕切ったり、大勢の人の前で臆することなく話したり、機転の利いた台詞でお客様を楽しませたり。母が普段やっていることを、自分が出来るともしたいとも思えなかった。

物言わぬ草花の世話をコツコツとするのが、自分には一番性に合っている。

そう説明すると、母はほんの少し口をつぐんだあと、ため息まじり言った。

「そう……。お母さん、あなたのこと全然分かっていなかったわ。何が好きとか嫌いとか……だから荒尾さんの話だけで、あなたたちがこっそりお付き合いをしていたのだと思い込んでしまったのね……」

「わたし、荒尾さんとお付き合いなんてしてないっ!」

思わずムキになって声を荒げてしまい、祥さんから「落ち着け、寿々那」となだめられる。
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