愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「ごめんなさい……。でもわたし、ロンドンにいる時にも荒尾さんと連絡を取り合ったことなんて一度もないの……」

「そうなのね……荒尾さんが寿々那に結婚を申し込んでいると聞いて、あなたが彼と結婚すればうちに戻ってくると……三年ぶりにあなたの顔を早く見たくて。だからあの時はその一心で、ここぞとばかりにあんなきつい言い方までしてしまったの。でもまさか、それが荒尾さんの嘘だったなんて……」

荒尾がついた嘘の数々を思い出したのか、母は胸から吐き出すように重たい溜め息をついた。

「お父さんもわたしも、あなたがロンドンに行ってしまってから、どんなにあなたを頼りにしていたのか気付かされて。こんな時だからこそあなたが森乃やに戻って来てくれたらどんなに心強いかと。そしたらちょうど銀行から融資を受けるには、『跡継ぎ問題』を解決した方がいいと聞かされて……。今思えば、それも荒尾さんから言われただけで、銀行の担当者から直接言われたわけじゃかったわ……。結局はわたしたち親が不甲斐ないばかりに、あなたをこんな目に合わせてしまって……本当に何と言って謝れば……。ごめんなさい、寿々那。あなたをとんでもない男に嫁がせるところだった……そうならなくて本当に良かった……」

「お母さん……」

「森乃やをこんなふうにしてしまったのはすべて女将と社長の責任よ。これからのことはわたしたちに任せて、あなたはあなたの好きな道を選べばいいわ。もちろん、香月社、……祥さんとしっかり話し合ってからね」

「うん……ありがとう、お母さん……」

潤んだ瞳で母を見上げると、母は赤くなった瞳で頷いてくれた。


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