愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「涼しくなったら鎌倉へ行こう。母も寿々那に早く会いたいと楽しみに待っているそうだ」
「はい。わたしもお義母さまに早くお会いしたいです。―――もう温室のお礼はしなくて良くなりましたが」
「父か……」
苦いものを噛んだような顔をした祥さんに、わたしは思わず「ふふっ」と笑ってしまう。
「それならそうと、最初からおっしゃってくださったら良かったのに」
どうして祥さんは『母が使っていたものだ』と嘘なんかついたのだろう。
わたしとしては別にどちらでも構わないのだけれど、その理由は気になってしまう。
祥さんをじっと見つめていると、彼がふいっとわたしから顔を背けた。
「結婚して初めての贈り物が温室だなんて、あまりに色気が無さすぎるだろう……」
不貞腐れたようにそう言った彼に、わたしは瞬きを三度してから口を開いた。
「そんなことありません。この温室、薬草園のものとよく似ていて、とても素敵です。わたしにとっては何より嬉しい贈り物でしたよ?」
目の前にある彼の耳がみるみる赤く染まっていく。
(もしかして祥さんって、意外と照れ屋なの?)
思いがけない発見に驚いていると、祥さんは眉をひそめたまま「次の休みに、寿々那の体調が良ければ一緒に指輪を見に行こう」と言った。結婚最初のプレゼントのことを、思ったよりも気にしていたのかもしれない。
「ありがとうございます、祥さん」
「いや、むしろ遅くなってしまって悪かった。本当ならそっちを先に準備するべきだったのに」
「いえ、指輪のことじゃなくて、」
「ん?じゃあ温室のことか?寿々那がここを気に入ってくれたならそれでいい」
「ありがとうございます。だけど、それだけじゃなくて……」
濡羽色の瞳に下からのぞき込まれ、鼓動が早くなる。その音をかき消すように、わたしは言葉を続けた。
「ロンドンで出会ってからこれまでの全部に、です」
わたしの言葉に彼は軽く目を見開いたあと、返事の代わりのように唇を重ねると、しばらくの間わたしを離さなかった。