愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
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「忙しいところにごめんね」

「そげんこと気にせんでよか(・・)よ。今日はちょっと余裕あるけん大丈夫」

お茶を運んできた妹に向かってそう言うと、子どものときと同じ、カラッとした笑顔でそう言う。

娘を連れて二年ぶりに実家に帰省したわたしは、当然のように両親と妹夫婦が暮らす母屋の方へ行くつもりだった。お客様ではないのだから、店から入るなんてできるわけない。

それなのにどういうわけか門のところで妹に捕まり、そのまま店の中へと連れて来られたのだ。

きっと事務所に顔を出して父たちに挨拶をしてから、母屋に行くのだろう。
そう考えていたのに、なぜか事務所の後に通されたのは森乃やの一室。しかも森乃やで一番いい部屋だ。

妹によると、母屋は今改装中で部屋に余裕がないという。
妹夫婦たちが同居し始めてから三年が経ち、家族も増えて手狭になったため、増築ついでに母屋もバリアフリーにすることにしたらしい。

座卓に湯呑を置いた妹は、着物の裾をさばきながら「よいしょ」と向かいに腰を下ろす。

希々(のの)ちゃん、大丈夫なの? もうだいぶん大きいわよね?」

「うん、七か月。でも安定期やし、今が一番動きやすかよ」

言いながら希々花(ののか)が帯の下――おはしょりのあたりをそっとなでる。
希々花は幸が生まれるひと月前に第一子を出産し、その二年後に二人目を。そしてこの夏には第三子を出産予定なのだ。

「次もまた男の子みたい」と幸せそうな顔でぼやく希々花に「ふふ」と笑って、胸の底に落とされた鉛に気づかないふりをした。
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