愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「それはそうと、すっかり板についたわね、若女将」

淡い萌黄(もえぎ)色の色無地を身に着けた妹は、どこからどう見ても若女将そのもの。

わたしとは違って子どもの頃からずっと長かった髪が、すっきりとしたショートボブになっている。それが着物姿を若々しく見せていて、来年三十になるようには見えない。

一方、わたしはと言うと。

以前はあご下で切りそろえたボブスタイルだったものを、今は鎖骨のあたりまで伸ばしている。なにかとアレンジができた方が都合がいいからだ。

「もうっ、寿々姉。からかわんで」

ぷくっと頬を膨らませて上目遣いに睨んでくる希々花に、そういうところは子どもの頃から全然変わってないなぁと笑いがこぼれる。

「からかってなんてないわよ。心からそう思ってるもの。でもまさか、あの希々ちゃんが森乃やを継ぐなんてねえ……」

三年前、女将である母が突然倒れたことをきっかけに、妹夫婦は勤めていた会社を辞め、森乃やの後を継いだのだ。
妹は母について若女将に、義弟である晶人(あきと)さんは事務長兼秘書として、父の下で経営を学んでいる。

祥さんからの援助のおかげはもちろんだけれど、若い二人が入ったことで森乃やは以前のような活気を取り戻し、経営も立ち直りつつあるという話は私のところにも届いていた。

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