愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

「―――なぜだ。初めてだろう、怖くはないのか?」

「怖いです……」

「じゃあ、」

「怖いのは初めて……だからじゃありません」

わたしがそう言うと、切れ長の瞳にいぶかしげな色が垣間見えた。しっとりと濡れた烏羽色(からすばいろ)のそれから目を逸らしたくなる自分を奮い立たせ、なんとか声を絞りだす。

「本当に怖いのは……初夜です。あの男に抱かれる時、『あの時の方が良かった』と思ってしまったら……きっとこれから何十年も続く夜が苦痛になる」

「………」

「一週間後には結婚するくせに、その前にあなたに抱かれようとしている。しかも初夜で『あの時よりマシだ』と思えるようにと……。あなたを利用して……そんなひどい女なんです、わたしは……」

支離滅裂であまりに利己的な主張を押し付けていることは分かっている。
だけど、『今』を逃したらわたしの企みがきっと一生叶わない。

緊張と羞恥から潤んだままの瞳で、わたしは彼を見上げ震える声を張り上げた。

「わたしの初めてを……手ひどく奪ってくださいっ」

言い切った後、一瞬の沈黙が降りた。

「覚悟はあるんだな」

低く落ち着いた声に静かに問われ、わたしは震える唇を引き結んだまましっかりと頷いた。
彼は一度長い息を吐き出してから、「分かった」と短く言った。

「お望み通り、ひどく奪ってやろう」

口の端を持ち上げ不敵な笑みを浮かべたその人は、わたしの着ているバスローブを一気に取り払った。



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