愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「出来る限り優しくしよう」
硬く目を閉じたまま乱れた息を必死で整えていると、しっとりとした低音が甘く耳に響いた。
優しい言葉と落ちついた声。
そこに慈愛すら感じて、硬く閉じていた瞳を持ち上げたのに、わたしは目に入ったものに瞬間息を呑んだ。
聞こえたものと見えたものは、まったくの逆。
真上にあったのは、激しい劣情を隠そうともしない鋭いまなざし。
まるで獲物を狙う猛禽類だ。
わたしの顔の横につかれた両腕には、鋭い爪が隠されているのかもしれない。
昼間は後ろに流されていた髪は、今はしっとりと湿って額にかかっていて、艶々と黒光りしている。
少しだけクセがあるんだな―――なんてそんなことを考えている場合じゃないのに。
案の定、祥さんは切れ長の目を細め、「別のことを考えるとはずいぶん余裕だな」と口にした。
「えっと……その、別に、」
「まあいい。それも今だけだ。すぐに何も考えられなくしてやる」
蠱惑的な笑みを浮かべた彼は、そう言ってわたしへの最終宣告をした。
「優しくするつもりだが、今さらやめるとは言わせない。自ら懐に飛び込んで来た仔ダヌキを逃すほど、俺は甘くないぞ」
「こだっ…!」
初めて言われた言葉に驚いて、反論しようと開いた口を硬く引き結んだ。
分かってる。
決して無理やり連れて来られたわけじゃない。こうなることを望んだのは、他でもない自分だ。
飲みなれないアルコールと直前の激しいキスのせいで霞がかった頭を何とか動かして、わたしは両目をしっかりと開いた。
「ひどく……」
「は?」
「ひどくしてください。優しくなんて…しないで」