愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】

意を決して宣言すると、祥さんが頷いてくれたので、わたしはこの二日間抱えていたもやもやを口にした。

「祥さんこそ、わたしなんかを嫁にして大丈夫なのですか…?」

「どういうことだ…?」

「だって、こんなに大きなホテルの社長さんなんですよね、祥さんは」

「社長さん……」

呟いたあと「くくっ」と笑われる。
じろりとひと睨みすると「ああ、悪い」と続きを促された。

「大きな会社の経営者がわたしのようなただの料亭経営の娘を娶るなんて……周りから反対されるんじゃないでしょうか」

「『娶る』なんて、寿々那はずいぶん古風な言葉を使うんだな」

「もうっ!だから真面目にっ、」

「問題ない。嫁の後ろ盾をあてにするような、生ぬるい経営はしていない」

「……でも、祥さんのご両親は…?婚前のご挨拶にも伺わないような嫁なんて、祥さんのお父さまやお母さまはご不満に思われていらっしゃるのでは?」

「それも問題ない」

「問題ないって……」

「父からの署名もきちんと入っていただろう?」

「それはそうですが……」

言われてみれば、証人欄の右側には『香月祐』とすでに書いてあった。

「うちの両親は息子の結婚相手にとやかく言うタイプじゃない。それどころか喜んでサインしたくらいだ。『いいかげん嫁を貰って早く孫の顔を見せてくれ』とせがまれていたからな」

「まっ……まごっ!?」

声が裏返るほど驚いたわたしの頭に、ポンと大きな手。
「心配は要らない」とでも言うように、頭の上で二度ほど跳ねる。そしてそのまま、するすると髪を伝って下りてきた。
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