愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「まるでドングリを貰う仔ダヌキみたいだな……」

「こだっ…!!」

失礼にもほどがある。
確かにわたしは顔も目も丸いし、鼻も高くない。自分でも『タヌキ顔』だと分かっている。
だからって、いきなりそんなふうにディスらなくても…!

「おりますっおろしてっ…!」

上等なスーツをこれ以上濡らしてはまずいとか、誰かに見られたら恥ずかしいとか。そんなことはこの際どうでもいい。
失礼なことを言われて黙っているほど、わたしは大人しくはないぞ。そんな気分だ。

腕の中でジタバタするわたしのことなど意に介さないとばかりに、彼はそのままスタスタ歩き出した。

もう一度「おろしてください!」と訴えたところでやっと、ビーチチェアの上に下ろされた。

「濡れたままだと風邪を引くぞ」

「あ、……ありがとうございます……」

置いておいたガウンを肩に掛けられて、反射的に口からお礼が。
言われてみれば、さっきまで温かかった体が少し冷えていることに気が付いた。五月とは言えど、濡れた体に夜風は冷たい。

「じゃあ何だ?」

「え?」

「寿々那は何が嫌なんだ」

「いやなこと………」

「ああ。嫌なことがあれば何でも遠慮なく言ったらいい」

「嫌……なこととは少し違うのですが」

そこでいったん言葉を切ると、祥さんはビーチチェアの端に腰かけ、「なんだ?」と顔をのぞき込んできた。

「分からないことが多すぎるんです」

「分からないこととは?俺に分かることならなんでも訊いたらいい」

「―――じゃあ訊きます!」
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