愛のない結婚のはずが、御曹司は懐妊妻に独占欲を放つ【憧れの溺愛シリーズ】
「あっ、やだ…あの、えぇっとそれは……」

うっかり口に出してしまった独り言を拾われて、祥さんも驚いた顔をしたけれど、わたしはもっと大慌て。早く訂正しなければと思えば思うほど言葉が出てこない。

すると彼は不敵な笑みを浮べた。

「それは誘われていると思っていいのか?」

「い、いや……あの、別にそういうわけでは、」

「俺も子どもは早く欲しいと思っている」

「っ…!」

まったくの勘違いだし、全然そういうつもりじゃない。そう反論しなければと思ったとき、見開いたわたしの両目に堀が深く鼻筋の通った顔が近付いてくるのが映った。

もしかしてこのパターンは―――。

博多の時を含め、入籍してから一緒に居た時間の多くがそういう(・・・・)シチュエーションで。しかもそれは、必ずしも『寝室で』というわけではない。
うっかりソファー(ここ)での場面を思い出してしまい、一瞬で顔が上気する。

「あの……祥さ、」

手のひらひとつ分まで距離を詰められてうろたえていると、彼はわたしの前髪を片手で上げ、あらわになった額に軽やかなリップ音を立てた。

予想と違う場所に落とされた唇に目を丸くすると。

「だけど今日のところはこれでおあずけだ」

「え、」

「具合が悪いのだから、今は体調を一番に考えた方がいい」

「………はい」

諭すように言われ、大人しく頷いたのだった。


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