あなたには責任があります!
 それを押しとどめたのは、リビングのほうから聞こえるかすかな人の声だった。ベッドルームとをへだてる木製のスライドドアが、ほんの少しだけ開いている。
 タカフミは声が高いほうではあるけれど、これはきっと女の声。
 わたしが寝たあと、だれか来たのかもしれない。こんな真夜中に。
 タカフミにつけられた“天使”の異名は、もてるくせにだれともつきあおうとしないところからも来ていた。
 そのスクープ性はさておき、恋人たちの秘密の夜を邪魔する無神経な奴と思われたくない。
 頭にも心臓にも血が巡りはじめた美花梨は、四つん這いでベッドから降りると、スライドドアに静かに近づいた。
「ダメだよぅ……ヤダ……」
 ケンカしてるのかな? 
 それにしては間延びした、甘えた声だ。そこにいるはずのタカフミの返事も聞こえない。
 美花梨は木製のスライドドアの隙間に、そっと片目を嵌めてみた。
< 2 / 25 >

この作品をシェア

pagetop