編集後記

兆し

編集後記。
巻末に記載された、言わば感想文。
そんな風に捉えていた。
斎藤渓。
教律大学4年生である。
文系サークル【優柔不断】の部員である。就職に少しでも有利になるかと、文系のそれらしい所に加入しようと思って入ったサークルである。活動内容は、本を読み漁って書評を書く。それをネットに上げていく。それだけだ。
誰かが読もうが、それによってどんな利益や売行きを左右しようが、興味がなかった。
言わば、どうでもよかれ、なのだ。

そんな彼に、電話である。
優柔不断の部室。
非通知。
とりあえず出る。
斎藤渓さんのケータイですか?
女性からである。
携帯を持ち直し、姿勢を正す。
「どちら様ですか?」
声に聞き覚えはなかった。
女性はこう語った。
「わたくし、堂共出版社の都築と申します。はじめまして。斎藤さん、うちの社の鈴木ご存知ですよね?鈴木孔です」
たしかに知っていた。
鈴木孔は、優柔不断OBで2歳年上で堂共出版に就職した事も知っていた。
それよりも、鈴木とは懇意にさせてもらっていて、よく呑みにも連れ出してもらっていた。最近では、出版社への就職のアドバイスで電話したばかりである。
「鈴木がどうかしましたか?」
使い慣れない先輩への呼び捨てに、戸惑いながら訊いた。
「電話ではちょっと。少し会うことは可能でしょうか?」
鈴木の事はきになるし、女性と会う事は願ったり叶ったりである。
約束の場所と時間を聞いて電話を切った。








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